喜多川歌麿「大黒屋店先に桜と遊女」

吉原というのはある意味特別な場所。周りを鉄漿どぶに囲まれ、独自の文化や風習が在る浮世離れした場所であった為か、独自の言葉と言うのものが出来ました。
代表的なものに、高級遊女の使う「ありんす言葉」。
吉原には、各地方出身の女性が流入していたため、当然のことながら、各地のお国言葉が使われていたが、それらが混在しては艶消し(色気がないこと)であるというので、やがて優艶な吉原言葉に統一する必要に。
かくて生まれたのが、廓言葉ともいわれる「ありんす言葉」であります。「ありんす」とは吉原の廓言葉の代表で、「あります」を意味します。
各遊女屋によって廓言葉が違っていたり、それをその遊女屋の特色にしていたことは、洒落本(しゃれぼん)等に書いてありますが、オス・ザンス・ナンシ・ザマス言葉など、岡場所(官許の吉原以外の品川・新宿・深川などの遊里)には見られぬ廓言葉が多かったのです。
安永~天明(1772~89)頃から、当時の外国の知識を応用し、吉原を外国に見立てて、ありんす国などと呼ぶことが行われ、川柳にも、
日本を越すとアリンス国へ出る
日本からアリンス国は遠からず【日本は日本堤のこと】
などと詠まれています。
ありんす言葉の例としては
「大かた、内にはおかみさんがござんせうね」
きっと、家には奥さんがいるんでしょうね。
「生まれつきでおすものを」
生まれつきなんだから(しょうがないでしょ)
「後生だから、ちっとものを言わずにいておくんなんし」
お願いだから、少し黙っててくんない
「わつちやァいや」
え~、私ヤダぁ~
「もちっとゐなんせ、まだはやうおざんす」
もうちょっと居てよ、まだ早いわよ
「すかん」
嫌い
「モシヘわつちやたつた一つねがいがござんすよ」
あのね、私一つなんだけどお願いがあるの
「ほんにかへ」
本当?
「嘘をおつきなんし、よくはぐらかしなんすヨ」
もう、嘘ばっか言わないでよ、ごまかしてばっかりなんだから
「あい、お出でなんし、おあがりなんし」
はい、いらっしゃいませ、上がっていって下さい
他にも吉原から生まれた言葉としては、野暮・冷やかし・お茶をひく等今でも常用する言葉がある。
そうだということを | そうざます |
イヤなことを | 好かねえ |
やきもちやきを | 甚介 |
男女の交合を | 床に入る |
月経(生理)を | 行水 |
耳盥を | 半蔵 |
武士のことを | やまさん |
坊主を | げんさん |
田舎の人を | 旅人衆 |
商家の番頭を | 店者(たなもの) |
惚れた男を | いい人 |
茶屋の男の奉公人を | 消し炭 |
買ってくることを | とってきな |
文使いを | 便り屋どん |
男女が楽しむのを | おしげりなんし |
腹の立つを | じれったい |
つまみ食いを | げびぞう |
女衒(ぜげん)を | 判方 |
暇であることを | あがり |